【MT5 API 応用編⑤】FXモメンタム戦略
この記事では、MT5 API 応用編⑤として、FX市場におけるモメンタム戦略の基本的な考え方から、クロスセクション・タイムシリーズ・デュアルモメンタムといった代表的な手法、さらに回帰分析(t値)を用いたトレンド検出や実践的な応用戦略まで解説します。
市場のモメンタム効果
モメンタム効果(Momentum Effect)とは、直近の値動きが持続する現象を指します。
例えば、直近で上昇している銘柄は他と比べて上昇が継続しやすいという傾向があります。
このような傾向を利用したモメンタム戦略やトレンドフォローなどは古くから投資・投機で利用されており、人気の高い戦略の1つといえます。
過去の研究としては、Jegadeesh and Titman(1993)の論文「Returns to Buying Winners and Selling Losers」が有名で、過去3~12か月勝っていた銘柄が、その後3~12か月も勝ちやすいことを示しています。
一方で、近年の研究では単純なモメンタムが弱まっているという報告もあります。
しかし、機械学習が広まっている現代でも、モメンタム戦略の考え方はさまざまな定量戦略に組み込まれており、基本は押さえておくと良いかもしれません。
モメンタムとリバーサル
モメンタム戦略と逆のアプローチとしてリバーサル戦略が存在します。
- ●モメンタム:上がっているものはそのまま上がりやすく、下がっているものはそのまま下がりやすい
- ●リバーサル:上がりすぎたものは下がりやすく、下がりすぎたものは上がりやすい
つまり、モメンタム戦略は順張りで、リバーサル戦略は逆張りの戦略となります。
真逆の考えを持つモメンタムとリバーサルですが、どちらかが正しく、どちらかが間違っているというわけではなく、相場は常に「モメンタム(またはリバーサル)効果が働く」といった単純な解釈はできません。
現代のトレードでは「モメンタム効果が発生する条件」や「リバーサル効果が発生する条件」を分析して見つけていく作業が必要となります。
クロスセクションモメンタム
モメンタムには大きく分けて、クロスセクションモメンタムとタイムシリーズモメンタムの2種類があります。
クロスセクションモメンタムは、複数の資産を横並びで比較して、どれが強く、どれが弱いかを判断する考え方です。
複数の銘柄から、過去の成績が特に良かったものを買い、弱かったものを売る、という形です。
つまり、いくつかの銘柄を比較して「全体の中で、どれが相対的に強いか」を基準に売買します。

シンプルなクロスセクションモメンタム戦略のルールの作成例
- ●各銘柄について、過去12か月のリターンを計算する
- ●リターンが高い順にランキングを作成する
- ●上位3つの銘柄を買う
- ●下位3つの銘柄を売る、または保有しない
- ●毎月1回ランキングを更新し、銘柄を持ち替える
タイムシリーズモメンタム
タイムシリーズモメンタムは、その銘柄自身の過去の値動きを見て判断する考え方です。
ある銘柄が過去数か月で上昇しているなら買い、下落しているなら売り、というように判断します。
つまり、その銘柄を単体で見て「その資産は最近上がっているか、下がっているか」を基準に売買します。

シンプルなタイムシリーズモメンタム戦略のルールの作成例
- ●取引対象銘柄の過去12か月のリターンを計算する
- ●リターンがプラスなら買う
- ●リターンがマイナスなら売る、または保有しない
- ●毎月1回シグナルを更新する
デュアルモメンタム
デュアルモメンタムは、クロスセクションモメンタムとタイムシリーズモメンタムを組み合わせた考え方です。
つまり、「他の資産と比べて強く、なおかつ、その資産自身も上昇しているものだけを買う」という考え方です。
シンプルなデュアルモメンタム戦略のルールの作成例
- ●各銘柄について、過去12か月のリターンを計算する
- ●リターンが高い順にランキングする
- ●上位3つの銘柄のリターンがプラスなら買う
- ●下位3つの銘柄のリターンがマイナスなら売る、または保有しない
- ●●毎月1回ランキングを更新する
モメンタム戦略の運用成績
ここで一度、モメンタム戦略の運用成績の参考例を見ていきましょう。
米国の大型株・中型株の中から、モメンタムが相対的に強い銘柄を選んで構成する指数「MSCI USA Momentum SR Variant Index」があります。

グラフは、青がMSCI USA Momentum SR Variant Indexに連動するETF「MTUM」で、S&P500に連動するETFである「SPY」と比較しています。
MTUMの運用方法を簡単に説明すると、
- ●各銘柄(米国の大型株・中型株)について6か月と12か月の期間で、リスク調整モメンタムを計算する
- ●リスク調整モメンタムの計算方法は「超過リターン÷過去3年の週次リターンの年率標準偏差」
- ●6か月モメンタムと12か月モメンタムを標準化して平均をとりスコアを作る
- ●スコアが高い上位125銘柄を買う
簡単に言い換えると、過去半年から一年の株価の上昇に勢いのある銘柄を買うクロスセクションのモメンタム戦略ということになります。
グラフの形状を見ると順調に運用益を上げているようですが、このような単純なモメンタム戦略はSPYに対して優位な戦略というほどではないようです。
通貨モメンタム
為替市場でのモメンタムについては、Menkhoff, Sarno, Schmeling, Schrimpf(2012)の論文「Currency Momentum Strategies」が代表的です。
これは、米ドル建てで各通貨の過去リターンに基づいて勝ち組通貨を買い、負け組通貨を売る戦略を調査しています。
論文では良好なパフォーマンスが報告されており、為替市場にモメンタム効果が存在することを示しています。
しかし、この論文の検証期間は1976~2010年となっており、2000年代中頃からはパフォーマンスが悪化しています。
近年の通貨モメンタム
それでは実際に近年のFXデータを使って単純なモメンタム戦略を検証していきましょう。
条件は以下の通りです。
- ●検証期間は、2014年始から2026年3月末まで
- ●対象はFXで取引しやすい主要な8通貨(USD、JPY、EUR、GBP、CHF、AUD、NZD、CAD)とする
- ●過去リターンに基づいて通貨強弱を作成する
- ●強い3通貨と弱い3通貨の組み合わせで3通貨ペアを売買する(強い通貨を買って弱い通貨を売る)
- ●月末に通貨強弱を再計算し、結果に基づき通貨ペアを再構築、ポジションを持ち替える
- ●計算期間を「12か月、6か月、3か月、1か月」の4通り用意し、それぞれ検証する

このグラフは各条件「12か月、6か月、3か月、1か月」でのバックテスト結果を示す、損益グラフです。
この結果を見ると、4通りの条件はいずれもパフォーマンスが悪く、単純な通貨モメンタム戦略は近年の為替市場では通用しなくなっていることがわかります。
モメンタムは本来、情報に先に反応した参加者を、遅れて反応する参加者が追随することで利益を得る戦略です。
しかし、全員が同じように参加すると、調整が早まって利益余地が縮むと考えられます。
通用しなくなった原因を明確に知ることはできませんが、あえて推測するなら、モメンタム戦略が有名になった上に、誰もが容易にバックテストを行える環境が整ったことで、単純なモメンタムの優位性が薄れたのかもしれません。
現代の通貨モメンタム戦略は、「単純にモメンタムが強い通貨を常時持ち続ける」という発想ではなく、「いつ回すべきか、いつ止めるべきか」という条件を見つけることが重要といえます。
FXモメンタム戦略を作るためのアイデア
ここまで、モメンタムの基礎と現代のFX環境でのモメンタムについて解説しました。
最後に、単純なモメンタム戦略が機能しなくなった今、我々トレーダーはどのように優位性を見つければいいのかを考察していきます。
タイムシリーズモメンタムの改良
タイムシリーズモメンタムは、単純に直近のリターンが「プラスかマイナスか」という点だけに注目しましたが、「安定した上昇トレンドが発生しているかどうか」という点にも注目していくことを検討します。

グラフは同程度のプラスリターンが出ている例を示しています。
青は安定上昇しており、オレンジは不安定な値動きをしています。
リターンの数値は同程度でも、オレンジよりも青の方がモメンタム効果は発生しやすいのではないかという発想が生まれます。
このようにリターンが安定しているかどうかを戦略に組み込むためには、それ専用にテクニカル指標を利用する必要が出てきます。
方法は無数にあるかと思いますが、ここでは線形回帰のt値を利用する方法を紹介します。
t値とは「回帰係数が、ノイズに比べてどれくらい大きいか」を表す指標で、データのばらつきに対して傾きがはっきりしているときに大きな数値となります。
import numpy as np
import statsmodels.api as sm
# price['Cloce'] の対数変換
y = np.log(price["Cloce"].dropna())
x = np.arange(len(y))
x = sm.add_constant(x)
# 線形回帰、t値の計算
model = sm.OLS(y, x).fit()
t_value = model.tvalues[1]
対数変換した終値に対して線形回帰のt値を計算することによって、「価格推移が右肩上がりの直線にどれだけきれいに沿っているか」を数値化できます。
「t_value」が高いことをモメンタム戦略の条件に加えることで、現在きれいなトレンドが発生していることを検出できます。
短期戦略
古い文献では12か月や6か月といった長い期間を使ってモメンタムを測り、フォワード1か月のポジションを決めるといった戦略が多いですが、システムトレードを行う前提ということもあり、より短期の戦略を検討します。
数時間単位で行うような短期FX戦略においては、FX市場の時間帯ごとの特性も加味する必要があります。
例えば、「ロンドン時間の初動の動きだけを狙った戦略」というように時間の節目を組み込むことも、市場環境的な意味を考えると有効になる可能性もあります。
ポストショックドリフトモメンタム
ポストショックドリフトモメンタム(Post-Shock Drift Momentum)は、予想外のニュース・経済指標・価格ショックのあと、価格が初動方向にしばらく動き続ける現象を利用するモメンタム戦略のことで、定量戦略の文献や記事で取り扱われることもある考え方です。
FX戦略においても、ボラティリティが上がったとき、例えば市場オープン直後の値動きの方向性をシグナルとして組み込むといったアイデアを検証してみてもいいかもしれません。
応用戦略
ここまでに出たアイデアを使った応用戦略として以下のルールを検証します。
- ●直近5営業日の日次終値で8通貨(USD、JPY、EUR、GBP、CHF、AUD、NZD、CAD)の強弱を計算する
- ●強い3通貨と弱い3通貨の全組み合わせ9つの通貨ペアを候補にする
- ●各通貨ペアについて、ロンドン開始前時点で直近5日相当の1分足対数終値からt値を計算する
- ●t値の絶対値が最大の通貨ペアを、その日の対象ペアとして1つ選ぶ
- ●ロンドン時間最初の30分間(8:00~8:30)で動いた方向に8:30にエントリーする
- ●12:00に決済
※単純なモメンタム戦略との比較調査をするための簡易的な検証を目的としているため、厳密な取引コストや損切りルールなどは考慮していません。

バックテストのパフォーマンスを見ると、単純なモメンタム戦略からは大きく改善していることがわかります。
これがそのままリアルトレードで使える戦略とは言い切れませんし、オーバーフィッティングを疑う必要もあるでしょうが、ルールベースの戦略でもいくつかのアイデアでパフォーマンスを改善できる可能性は示せたかと思います。
【MT5 API 応用編】
- ・【MT5 API 応用編①】トレード戦略のパフォーマンス分析
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本記事の執筆者:藍崎@システムトレーダー
| 本記事の執筆者:藍崎@システムトレーダー | 経歴 |
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